私のジャズ喫茶時代はよく上智大学のT君と行動をともにしました。
 そんな彼がある日こんなことをいいました。
 「最近ドイツ文学に凝ってきまして、ポル語はどうでもよくなりました」

 たしかにドイツ文学に詳しく、いったん話し始めると私の知らない作家の名前(オットー・バイニンゲルとかグリパルツァーとか)がどんどん出てきます。
 単なる趣味にしてはすごいな、とは思ったけど、今さら編入するのもなあ。
 私が出版社に勤めるようになって(家庭も持ち)、マイルスからは遠のきましたが、彼との交流は続きました。
 そのころ彼は千歳烏山から逗子(神奈川県)に引っ越していました。
 「遠くなったなあ」というと、
 「ラクショウ、ラクショウ。京浜急行で一本だし」
 それに日の出町で下車すれば、「リンデン」「ファースト」「ちぐさ」(いずれも野毛のジャズ喫茶)にも立ち寄れる、と笑いました。
ジャズ喫茶の本場、横浜野毛 
 「ラクショウ、ラクショウ」は彼の口ぐせで、他にも「ふむふむ」「いいこといいこと」がありました。
 その雰囲気は「あっは」「ぷふぃ」を連発する「首(くび)猛夫」(=埴谷雄高「死霊」に出てくる人物)を彷彿させました。
 その後、彼とは連絡が途絶え、2年ほどして関西から手紙がきました。
 関西学院大学に入ってドイツ文学を専攻しているというのです。
 「やっぱり思いは強かったんだなあ。それにしても20代半ばにして1年生からやり直すとは」
 こっちはただおどろくばかりです。

 彼とは京都で一度会いました。熊野神社近くの「河道屋」で食事し、荒神口の「しゃんくれーる」に行きました。
 ここは倉橋由美子の「暗い旅」にも出てくる有名なジャズ喫茶です。
 彼がここでリクエストしたのはジャズではなく、ワーグナーの「マイスタージンガー」でした。
荒神口(この近くに「しゃんくれーる」があった) 
 その後、T君の消息は完全に途絶えました。
 人づてに聞いたところでは、関西で予備校の英語の講師をしているとのことです。私としてはもう一度会いたい。
 「BACKLUSH」が好きだった理由を聞いてみたいから。
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