私がO夫妻にことばをかけて数日後、コルセット姉妹のひとりY子(44)から、
 「お兄さん、Oさんになにをいったの。奥さんすごく感謝してたわよ」といわれました。
 「えッ、なんのこと?」

 Y子たちがラウンジで雑談していたら、Oさんの奥さんに話しかけられ、圧迫骨折についていろいろ聞かれたそうです。「私の夫も圧迫骨折で、今寝たきりなんです」
 そこでY子たちは、自分の体験談を交えて、奥さんを励ましました。
 「最初は辛いけど、コルセット着ければ起き上がれるようになるし、リハビリ続ければ必ず歩けるようになります。だからOさんも頑張って」
 
 奥さんはさらに同室の私のことに触れ、声をかけられたことが「涙が出るほどうれしかった」とか。

 意外でした。
 なんの脈絡もなしに、思いつきでいったことがそんなに感謝されていたとは。 
東端の窓から見る朝日① 東端の窓から見る朝日② 
 Oさんに少し遅れて、となりに入院してきたKさん(84)。
 この人は腰を打っての圧迫骨折。そのため最初は寝たきりで、食事は30度。排泄はリハビリパンツという状態で、看護婦さんには恐縮しきりでした。

 そのKさんがコルセットを着けて、食事のとき50度起こされて「食べ物が見える!」とよろこんだとき、となりで聞いていた私はどんなにうれしかったか。
 そこで通りがかったとき、「よかったね」と声をかけました。
 そしたら堰を切ったように話す、話す。
 それ以来、朝食後Kさんと話すことが日課になりました。
 以前いた療養病院でのお風呂の様子を話してくれたのはこの人です。 
朝日を浴びた廊下・突き当たりは西端のガラス戸 
 Oさんといい、Kさんといい、私のほうから話しかけるということは、これまでの自分には考えられなかったこと。変われば変わるものです。

 「Y子は入院する前のオレのことは知らないだろうけど、人を励ますなんてこととはおよそ無縁の人間だったよ。人は人、オレはオレで生きてきたからなあ」
 Y子にこう話すと、怪訝な顔をされました。
 「ところが入院して変わったんだよ。この年でこんなことってあるのかね」
 Y子はしばらく考えて、
 「それは神様の思し召しよ。お兄さんに『よかれ』と思って神様が突き落としてくれたんだよ」
 なにをいうのだ、こいつ……といいかけて、ぐっと呑み込みました。そうかもしれない。
 こんな若い娘(?)にいわれるとは思わなかった。

 これについて、アメリカに住む従姉がこんなことばを寄せてくれました。
 「人生、無駄なことは何ひとつありません。患者は孤独な病室で痛みや不安に耐えつつ、人生の生きる意味に気づかされ、この地球に存在している神秘に触れることができるのです。病院は居たくない場所でありながら、最も祝福(全快退院、天国行きも含めて)された場所ともなり得るのです」

 私が何気なく声をかけたことが、孤独な患者の琴線に触れたのでしょうか。
 それに病院は祝福された場所。
 私の入院体験はつくづく無駄ではなかったと思いました。
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