句会が終ってから数日後、面会時間でもないのに、ひとりの老人がひょっこり私の病床を訪れました。主宰の先生です。
 あわてて居住まいを正しました。
 「今ね、レントゲン検査してきて、そのついでに寄ったんだよ」
 そして「どうやら肺に転移しているようだ」としんみり。
 癌の転移です。こっちも少しテンションが下がりました。

 「先生は煙草を吸ってたのですか」
 「うん、10年ほど前はね。1日2箱以上スパスパ吸ってたよ。編集者時代はもっとひどかった。煙がもうもうと立ち込めるなかで仕事やってたもんな」
 先生がS社の編集部にいたことは、以前聞いたことがあります。
 私はマイナーな出版社ですが、ともに雑誌の編集に携わった身、すっかり編集者談議に花が咲きました。
 「先生も仕事が終ったら麻雀してた口ですか」
 「そう、よくやったよ。編集者と博打は切っても切れない関係だよ」
 最後は「編集者時代は楽しかったなあ」
 すっかり気分をよくして帰られました。
 それから30分ほどして、看護婦さんから「Kさんという方がお見えです」
 K氏は70代半ば、わが句会のエースです。
 7月の句会で「今度こそ辞める」といっていたと経理の前任者から聞きました。彼は一年前にも同じことをいっており、私に強く慰留されて撤回しました。(参照
 またか、と思い、病院から暑中見舞いを出し、「辞めるのは私が許しません」と書き添えました。

 「京一郎さんはそういうけどね。私はもう先生の老醜ぶりが我慢ならんのだよ」
 先生とは先ほど私を見舞ってくれた御仁です。(よくハチ合わせしなかったもの)
 彼が以前からいっているのは、先生の句力が落ちている、もう見るに忍びない、というもの。
 「前回なんか、自分の病状を縷々説明してたでしょ。主宰たるものがいうことではない」
 「我われの句会はローカルのささやかなもの。先生が病状を説明したっていいじゃない」
 こちらも反論しました。(怪我を忘れて)かなり激しいバトルになりました。
この姿で激しい口論を  
 「いや。俳句会の主宰というのは、そんな弱みを見せてはいけない。それに前回の先生の句はなんです。あまりの体たらくだ」
 そういって、ひとつひとつあげつらい、コキおろしました。
 「それは私にもわかります。しかし先生のことより、我われのほうを向いてください。今Kさんに辞められると、我われは低レベルの烏合の衆だ」
 こういうと彼はことばに窮しました。(ここが彼のウィークポイントです)
 私は(辞めそうになっていた)彼を引き止めるために、6月には横浜散策に誘ったりして、どんなに心を砕いたことか。

 このあと話題が横浜のことになり、「あれは楽しかったな」
 険悪なムードはいく分和らぎました。
 そのうち話題が今月の句会の話になり、
 「京一郎さんの句だけど、今イチ推敲が足りない。①『引っ越して裏庭の百合置き去りに』は意味がよくわからない。玉葱は夏の季語だけど、②「明日カレー炒め玉葱つくりし夜」のような使い方をすると、季語にならない。このなかでは「③蓮開く朝一番の冥加かな」がいちばんいいけど、(朝)一番というのはよけいだな。蓮が開くのは早朝に決まっているから」
 あれほど激しく議論し合ったにもかかわらず、俳句を教えてくれる、なんと奇特な人物か。

 それでも別れ際、「みなさんとはもう会うこともないでしょう」「認めないからね」
 またやり合いました
 病室は終始静まり返っていました。他の患者たちはなんと思ったか、知る由もありません。
 主宰とK氏、私にとってはかけがえのない人物です。
 K氏に対しては、「主宰と仲良くしろ」とはいいませんが、とにかく出席してほしい、そう願わずにはいられませんでした。
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